日本の愚鈍化

adlib1991-11-17

 
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 from our pictures;19911117 日本の“愚鈍化” 
 米国を追う日本の“愚鈍化”  東京女子大教授 本間 長世
 
 ニューヨークで開かれた会議に出席した折に買い求めた書物を帰路の
飛行機の中で読み始めたら、機内上映の映画よりもずっと面白い。ポー
ル・ファッセルというイギリス文学およぴ文化の教授の最近著で、「バ
ッド」という題の本である。副題は「アメりカの愚鈍化」となっている。
アメリカ人の知識ないし教養の水準がいかに深刻に低下しているかを、
辛口のユーモアで書きつづっている。アメリ力衰退論者にとっては小気
味の良い議論だが、読み進むうちにこれは他人事でほないぞという気に
させられる。
?バッド?という英語はもちろん?悪い?という意味であるが、ファッ
セルに言わせると、全部大文字で表記した場合は、単に悪いということ
でほない。悪いもの──いかさまだったり、見苦しかったり、無能だっ
たりというように──でありながら、立派なもの──本物であるとか、
優雅であるとか、優れているとか──であると思い込まされるようなも
のを意味するのだという。個人の例を挙げると、プッジュ大統領は大文
字の?バッド?で、クウェール副大統領は小文字の?バッド?だそうで
ある。エドワード・ケネディ上院議員も大文字の?バッド?に分類され
る。
 ファッセルが言いたいことは、見かけと実体のずれが甚だしいものが
今日のアメリカに氾濫していること、そして人びとが見かけに怒わされ
て実体を見抜くことができないということなのである。それが、すなわ
アメリ力の愚鈍化であって、そのつけがどこに回ってくるかと言えぽ、
アメリ力の経済力が日本に移ることがそのひとつなのだという。
 ファッセルと同じ視点に立って、今日の日本における大文字の?バッ
ド?なもの、ないしほ人物を数え上げること肚できるだろうか。太平洋
上を飛ぶ機内で空想をめぐらすと、ファッセルの日本板を育ぐ材料は十
分にそろうように思えてくる。
 ファッセルの本には、小学二年のクラスの担任教師──生徒でほない
──が、先輩の教師に「一年は何週か」、また「何日か」を聞きにきた
実話が引かれていて、日本にはいくら何でもぞのようなことほ起こり得
ないと思う。しかし、何の能力もないタレントが人気を博したり、勉強
していない教授が専門家として尊重されたり、粗末な料理にもったいぶ
った能書きがついて高価なものとなったりする例は、いくらでもあるの
ではないだろうか。日本の愚鈍化も進行しているのである。
 悪貨が良貨を駆逐するように、にせものが本物を駆逐しでゆく傾向を
憂える声は、たしかに日本の中に上がってはいる。けれども、そのよう
な社会批判ないし文化批判を行う人ぴとも、今日の時勢の下でぱいつの
間にか?糾弾専門家?となってしまって、型にほまった議論をくり返し
ているうちに、自分自身がにせものに成り下がってしまう危険があるの
ではないだろうか。
 ファッセルによると、一年にともかく一冊の本を読むアメリカ人の数
は、大人の人口の六%にすぎないという。これは「風と共に去りぬ」の
続編として最近出版された小説「スカーレット」が、sy表ではこきおろ
されているのにべストセラーのトップを走り続けているのを見ると、信
じられない気がずる。ファッセルの書物自身、私は大きな書店で平積み
になっているのを見つけたのである。
 しかし、考えてみれば、日本の状況も実はそれほど変わってはいない
のかもしれない。最近私は、日本の高校生にメッセージを伝えようとす
るなら、新聞や雑誌に広告しても無駄で、テレビのコマーシャルに頼ら
なくてはならないという話を聞いた。新聞や雑誌を読まなくても、しっ
かりした本を読んでいるのであればよいが、若い世代の文字離れが進ん
でいるとすれば白木の愚鈍化が一層進むことを覚悟しなくてほならない
のではないか。ファッセルが挙げている例にはかなり独断的なものもあ
ると思うが、日本にも通ずる問題を提起していると思う。
 
 Fussell, Paul     19240322 America 20120523 88 /
 本間 長世 政治思想史 19290705 東京  20120915 83 /東京大学教養学部名誉教授
── 《山陽時評 19911117 山陽新聞
 
(20091120)(20150927)
 

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